家事従事者の休業損害
家事従事者の休業損害
名古屋の弁護士の能勢洋匡です。
本日は、家事従事者の休業損害についてお話します。
1 性別・年齢を問わず、現に家族のために家事労働に従事する者のことを、家事従事者といいます。
家事従事者=専業主婦と考えられている方もおられますが、実際には、ご家族のために家事をされている方であれば、主婦に限定されません。
2 通常、休業損害は、交通事故により負傷した結果、仕事を休まざるを得なかったことにより、給与が減額される等して収入が減ってしまった場合に発生します。
家事従事者が、ご家族から家事に対する対価を受け取ることはほとんどないでしょう。
このため、家事従事者が負傷により休業したとしても、収入が減少するわけではありません。
しかしながら、一人暮らしを経験された方はご存じかと思いますが、炊事、洗濯、掃除等の家事労働はかなりの重労働であり、体力も時間も必要とします。
日頃は、ご家族が無償で行ってくれている家事を、仕事として他者に依頼するとなれば、相応の報酬を支払わなければなりません。
このため、最高裁判所は、家事労働に金銭的価値を認めており(最高裁昭和50年7月8日判決)、家事従事者が交通事故により家事に従事できなくなった場合には、加害者に対して休業損害を請求することが認められています。
3 休業損害の算定にあたっては、まず、基礎収入を算定する必要があります。
実務では、家事従事者の基礎収入は、女性労働者の学歴計の全年齢平均賃金を元に算定されています。
例えば、賃金センサス令和元年の女性労働者の学歴計の全年齢平均賃金は、388万0100円であり、1日当たりおよそ1万0630円となります。
ただし、被害者がご高齢の場合には、その家事の負担量にもよりますが、年齢別平均賃金を元に算定される傾向にあります。
4 家事従事者の休業損害に関しては、休業した範囲が争点となることが多いです。
入院中であれば、全く家事を行えないことが明らかです。
しかしながら、ご自宅で療養されている場合、症状次第では、休み休みであったとしても、家事を行うことは不可能ではありません。
また、リハビリ治療や痛み止め薬の効果により、症状が緩和されれば、家事に回せる労力も増えていきます。
これらの理由から、家事従事者が、どれだけの期間、どの程度家事に従事できなかったのか、という争点が生じます。
実務では、実際に通院した日数の全部または一部を休業期間として算定する方法や、事故後の症状の経過・程度を勘案し、治療期間における休業割合を算出する方法(事故後30日間の休業割合は70%、その後の30日間の休業割合は40%、残りの90日間の休業割合は20%と算定するなど)がとられることが多いです。
訴訟となった場合、裁判官が、当事者の医療記録等を元に、労働能力の減少を判断し、休業損害を算定します。
5 相談に来られる方の中には、加害者側保険会社から示談案の中に、家事従事者としての休業損害が全く考慮されていない方もおられます。
休業損害が請求できる可能性を見過ごしたまま示談してしまうことがないよう、是非、一度弁護士にご相談ください。