傷痕と後遺障害
名古屋の弁護士の能勢洋匡です。
本日は、傷痕と後遺障害について説明します。
1 傷痕と後遺障害
⑴ 交通事故で怪我をした場合、治療後も傷跡が残ってしまうことがあります。
⑵ 体に傷痕が残ることは、被害者の心に重い負担を与えます。
⑶ このため、その傷跡の大きさによっては、自賠責保険の後遺障害認定がされることがあります。
2 「外貌」の醜状障害
⑴ 「外貌」とは、頭部、顔面部、頚部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいいます。
⑵ 後遺障害認定の対象となる外貌の醜状とは、他人をして醜いと思わせる程度、すなわち人目につく程度以上のものであることが必要です。
⑶ たとえば、眉毛や頭髪等に隠れる部分については、醜状として取り扱わないとされています。
3 外貌醜状の後遺障害等級
⑴ 外貌に著しい醜状を残すもの(第7級12号)
「著しい醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
ア 頭部にあっては、手のひら大(指の部分は含まない。)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損。
イ 顔面部にあっては、鶏卵大以上の瘢痕または10円銅貨大以上の組織陥没。
ウ 頚部にあっては、手のひら大以上の瘢痕
⑵ 外貌に相当程度の醜状を残すもの(第9級16号)
「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5cm以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。
⑶ 外貌に醜状を残すもの(第12級14号)
「醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
ア 頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損。
イ 顔面部にあっては、10円銅貨以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕
ウ 頚部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕
⑷ 耳介および鼻の欠損障害
ア 耳介軟骨部の2分の1以上を欠損した場合は「著しい醜状」とし、その一部を欠損した場合は、単なる「醜状」とする。
イ 鼻軟骨部の全部または大部分を欠損した場合は「著しい醜状」とし、その一部または鼻翼を欠損した場合は、単なる「醜状」とする。
4 測定方法
⑴ 外貌醜状の後遺障害は、「人目につく程度以上のもの」に該当するか確認する必要があるため、後遺障害診断書の記載だけでなく、損害保険料率算出機構の担当者による面談がなされます。
⑵ 認定基準に1mm届かないだけで非該当または等級が下がるおそれがあるため、測定方法を把握しておく必要があります。
⑶ 2個以上の瘢痕または線状痕が相隣接し、または相まって1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積・長さ等を合算して等級が認定されます。
⑷ また、大阪地裁平成10年1月23日判決は、「両端を定規で直線的に測定すると約2.5cmであるが、瘢痕の形に沿ってこれを測定すると3センチメートルに及ぶ」という瘢痕について、12級14号に該当するとしました。
実務でも、線状痕について後遺障害診断書の作成を求める際は、定規を当てるのではなく、傷痕に沿って糸を当て、その糸の長さで測定してもらう必要があります。
5 外貌醜状と逸失利益
⑴ 傷痕が残っていたとしても、体が動かなくなるわけではないことから、裁判では、外貌醜状の後遺障害について、逸失利益の発生を否定する傾向にあり、保険会社も、示談交渉の段階で逸失利益を認めることはほとんどありません。
⑵ しかしながら、傷痕によっては、対人関係に影響を及ぼすほか、モデルや接客業など、外貌が就業に影響する仕事もあることから、個別の事情によっては、逸失利益の請求が認められることもあります。
⑶ どのような場合に逸失利益が認められるかは、弁護士にご相談ください。